獣医師の独立・開業2022.03.08

独立開業に必要なこと

開業するか、勤務医を続けるか。特に臨床獣医師であれば一度は考えることではないでしょうか。開業するためには「十分な経験」、「融資」が必要ですし、開業後には「経営」、「顧客確保」、「スタッフ教育」などが必要になります。開業を成功させるために必要なことをお話しします。

目次

  1. キャリア形成
  2. 新規開業と継承開業
  3. 開業資金
  4. 開業の流れ
  5. 開業を成功させるために必要なこと
  6. まとめ

キャリア形成

スペシャリストを目指すのか、ジェネラリストを目指すのかによってキャリア形成は変わります。つまり、どの動物病院で経験を積むのかは獣医師としての将来像を考えて選択しなければなりません。
診察する疾病のレベルはスペシャリストの場合上がることが予測されますので、専門医がいる環境を選んだり、専門医取得を想定に学会発表、論文発表が必要です。
ジェネラリストを目指す場合は、全般的な診療科目に対する知識を要求されます。その中で得意とする分野を持つことを考えるべきです。専門医の資格を取得できればなおよいでしょう。
将来、専門病院の開業を目指すならスペシャリストであるべきですし、肩書も必要になります。一方、総合病院の開業を目指すならジェネラリストであり、かつ何らかの得意分野を持つ方が差別化のために有利です。
開業する前に、開業したい病院の方向性を考えキャリア形成しましょう。

新規開業と継承開業

独立開業の方法には「新規開業」と「継承開業」があります。それぞれのメリットとデメリットには以下のようなものがあります。

(1)新規開業
1.メリット
 ・ 自分が開業したい場所が選べる
 ・ デザインや間取りを自分の好みにしやすい
 ・ 使用する医療機器などを自分の好みで選べる
 
2.デメリット
 ・ 莫大な開業資金が必要になる
 ・ 顧客獲得が難航する場合がある
 
(2)継承開業
1.メリット
 ・ 開業資金を抑えることができる
 ・ 病院の存在が認知されている
 ・ 顧客やスタッフがすでにいる
 ・ 医療機器などの購入、リースが必要ないもしくは最小限

2.デメリット
 ・ 自分の希望する場所に継承先が見つからない
 ・ 建物や機材が古い
 ・ 先代院長との比較や、先代院長が経営に関与する

開業資金

ここでは、新規開業に必要となる資金の平均的な相場を紹介します。開業予定地や規模にもよりますのであくまでも参考にしてください。

1.建築する場合(土地が50坪、自宅別の場合)
土地を購入して病院を建築する場合には以下のものが必要になります。
・土地購入代金: 50坪×30万円=1500万円 
・建築費用: 50坪×50万円=2500万円
・器具機材購入費用: 1200万円(中古機器含む)
・医薬品や医材の購入費用: 200万円
・広告宣伝費: 100万円(ロゴデザイン、看板設置、広告など。HP作成を含むと50万円プラス)
・手数料、諸手続き費用: 300万円(不動産、仲介、登記、保証料など)
・運転資金: 350万円
・諸経費: 50万円

合計: 6650万円

2.テナントの場合(30坪、駐車場スペース3台使用可として)
・テナント契約料:家賃25万円の物件の場合 
  前家賃契約 25万円(家賃1か月分)
  保証金   125万円(家賃5か月分。場合によっては11か月)
  仲介手数料 25万円
  ※改装中も家賃は必要です。改装期間2か月の場合は50万円必要。
・改装費用: 30坪×30万円=900万円
・器具機材購入費用: 1200万円(中古機器を含む)
・医薬品や医材の購入費用: 200万円
・広告宣伝費: 100万円(建築する場合と同様として)
・諸手続き費用: 100万円 
・運転資金: 350万円
・諸経費: 50万円

合計: 3575万円

購入医療機器の内訳

レントゲン・現像機|エコー    |手術台   
診察台    |無影灯    |麻酔器
モニター   |生化学検査機器|血球計算機
遠心分離機  |オートクレーブ|入院犬舎
輸液ポンプ  |オペ器具など |分包機

医療機器の一部をリースにすることも可能ですが、リース期間は5~8年の場合が多く返済金額が高く負担が増えます。リースにすると金融機関からの借入金額は減らすことができますが、期間満了後は返還か再リースとなり、リース期間中の解約の場合は残債一括支払いになります。計画をしっかり立て、リースにするか融資に組み込むか考えましょう。
融資は運転資金と設備資金に分けられ、返済期間は運転資金は5年以内、設備資金は15年以内です。また、融資は総額の80%と決まっていますので20%は自己資金として準備する必要があります。
毎月の返済額はおおよそ40~50万円になることが多く、それに人件費、光熱費、物品の購入代金などが加算されます。

開業の流れ

1.開業する目的、コンセプトを決める
 融資審査の際にも質問されますが、何のために開業するのかという目的をはっきりさせておきます。経営方針や特徴、ほかの動物病院と差別化できる点などは必ず決める必要があります。事前に開業目的地域の人口や年齢別の構成比、ペットの飼育頭数などをリサーチします。

2.事業計画書の作成
事業計画書は自分で作成するか、コンサルタントなどに依頼します。経歴、仕入れ先、売上見込み(約5年先まで)、予想利益、取り扱う品目やオペ費用などの金額一覧、返済見込などを盛り込みます。特に返済が可能な計画を立てているのかということに注目されますので、無理のない計画を立てましょう。

3.場所の選定
場所の選定は重要です。わかりやすく目立つ場所を選ぶことが大前提です。さらに近隣に動物病院がある場合は避けるべきです。心情的な問題と、集客の見込みが予想を下回る可能性が高くなるからです。

以上のような経営上の問題以外に重要な点は動物病院を建ててもよい場所かどうかということです。普段の生活では気づきにくいのですが、土地には種類があります。「住居地域」
「商業地域」「工業地域」「市街化調整市域」です。それぞれにまた地域分類がありますが、「第一種、第二種低層住居専用地域」「第一種中高層住居専用地域」「工業専用地域」「市街化調整地域」は建築許可が下りません。事前に必ず確認しましょう。

4.見積依頼
建築費用、改装、器具など開業に必要になるものすべての見積もりが必要になります。特に建築、改装の見積は図面の作成や壁紙、照明器具、外壁素材、水回りなど想像以上に決めることが多く少なくとも1か月かかります。早めに依頼することをお勧めします。見積もりがそろって初めて事業計画書の作成ができるといっても過言ではありません。
複数の業者に見積もりは依頼しましょう。

5.スタッフ募集
融資決定後、必要なスタッフを募集しましょう。今後一緒に仕事をしていく大切な人材です。何度か面談を行い慎重に決定しましょう。ミスマッチ防止のために給与をはじめとするや待遇面、必要としている人物像を的確に伝えることが大切です。

6.広告、宣伝
建築や改装が始まる前に必ず近隣住民への挨拶は行いましょう。すべての人が動物好きではありませんので、騒音や排泄物に対する対策などをしっかり立て事前説明は欠かせません。
地域の新聞社などに取材依頼を行うことも可能です。看板を早めに設置することも集客に役立ちますし、ポスティングも大切です。HP作成は必須です。ターゲット層を定めイメージカラーを決定したうえで、理想の病院像からかけ離れないデザインで作成しましょう。コンセプトや方針を明確にし、はじめて来院する方に安心感や信頼感を与えることができるようにしましょう。

開業を成功させるために必要なこと

開業したからには順調なスタートを切り、成功させたいと誰しもが思います。
そのために必要なことは何でしょう。

・開業までの準備が大切
順調なスタートを切るためには、開業前の準備が重要です。開業最初の月に順調なスタートを切るためには近隣へのあいさつや、近場を散歩する方たちへの声掛け、ペットショップやブリーダーへ開業の旨と料金などについての説明を兼ねた挨拶が欠かせません。
開業したら患者さんが足を運んでくれると考えるのは少し甘い考えです。知らない病院に大切な我が子を預けるのは勇気がいります。しっかり周知していきましょう。

・飼い主様へのアンケート
開業して飼主さまへアンケートを行うことは重要です。なぜ知ったのか、なぜ来てくださったのかなどの来院理由を知り、効果的なPR手段を知り、動物病院に対して不満に思っている点を見つけます。開業後に新規来院者の伸び悩みやリピーターが減った場合にもやってみましょう。病院としての改善点が見えるはずです。

・経理を理解する
開業した場合、治療ができるだけでは経営が成り立ちません。現在のお金の流れを毎日確認し、1か月ごとに見直しをかけましょう。最初は難しいですので、信頼を置ける税理士にお願いし経営状態を診断してもらいましょう。

・軌道変更
病院の移転、拡張、分院、経営難など経営していくうえで様々な状況になることがあります。大切なのは、冷静な判断です。最終判断は院長が下すものです。信頼できる専門家と相談しながら様々な局面を乗り切り、患者さんに最大限の医療を提供できるようにしていくことが求められます。

まとめ

筆者自身の開業経験をもとに独立開業に必要なことをまとめました。開業には膨大な準備と知識、度胸が必要とされますのでほんの一部の内容ととらえてください。
地域や病院の規模によって計画内容や必要とする開業資金は異なります。しかし、その軸となる部分は変わりません。
初めて開業するときにはわからないことが多くあります。一人で決めず信頼できる支援サービス・コンサルタントに相談することが大切です。

どこに頼んでよいか判らないという方は、Pettie獣医師キャリアの独立開業サービスをご活用ください。本サービスでは様々な独立開業支援企業と提携をしているため、あたなに合ったサービスの提案が可能です。お気軽にご相談をください。

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