獣医師の職域2024.05.08

水族館の獣医師とは?

獣医師の仕事というと真っ先に犬や猫と言った小動物の治療を行う獣医師のイメージがあるかもしれません。
獣医師の仕事は多岐にわたり、小動物の治療を行う臨床獣医師、大動物の治療を行う産業獣医師、製薬会社・大学などに勤務する獣医師、公務員獣医師などさまざまです。今回は、水族館に勤務する海獣医師について紹介します。

目次

  1. 1. 水族館の獣医師
  2. 2. 水族館の獣医師の仕事
  3. 3. 水族館にいる動物の診療
  4. 4. 海獣医師を目指すには
  5. まとめ

1. 水族館の獣医師

水族館には淡水魚や海水魚といった魚類、クジラ類(クジラ・イルカ)・海牛(ジュゴンなど)・鰭脚類(ききゃくるい、アシカ・アザラシなど)、ウミガメ類、ラッコなどの海獣がいます。海獣医師はこのような動物の健康管理や治療を行います。

水族館にいる動物たちだけでなく、近隣の海などに打ち上げられた海獣の治療が依頼されることもありますし、環境保全に関連する仕事にも携わります。

魚類にかかわる獣医師には別の分野があり、養殖された水生生物にかかわる獣医師は水産獣医師と呼ばれ海獣医師とは異なる分野の専門家です。

2. 水族館の獣医師の仕事

水族館の獣医師はどのような仕事を行っているのでしょうか?実は、獣医師としての治療の分野だけでなく、飼育の仕事も行います。

(1)獣医師としての仕事

健康状態のチェックや検査、治療などは小動物臨床獣医師と同様に行います。しかし、陸に住んでいる動物たちではありませんので、検査や治療の方法には工夫が必要です。

朝の回診は非常に重要だといわれており、表情(ずっと見ていると分かるようになるようです)や人への接し方、ほかの仲間との距離感、動き方など、どんな些細な仕草も見落とせません。犬や猫のように、容易に手で触れて確認することができませんし、自然界では具合が悪いことが外敵に知られてしまうと、狙われやすくなり本能的に自分の体調の悪さを隠そうとします。
また、容易に検査ができないため体調不良がわかってからだと手遅れになる可能性がありますので、早い段階で違和感を発見して治療尾の決断をくだしていくことが最も重要とされています。

(2)飼育員としての仕事

重要な仕事として水族館内の動物のお世話があります。獣医師は病気の治療を行うだけでなく、水族館内の動物の日々の行動や食事内容などの管理、その他の仕事も積極的にこなす必要があります。病気以外のことも知らなければ、些細な変化に気づくことが難しい場合もあるでしょう。
自分が勤務する水族館内のことやほかの職員さんの仕事内容を知り、積極的にコミュニケーションをとることは大切です。一人で治療はできません。ほかの職員さんの協力が必ず必要です。

3. 水族館にいる動物の診療

(1)水族館にいる動物の分類

水族館には様々な動物が展示されているが、大まかに分類すると「魚類」「海獣類」「刺胞動物門」「甲殻類」「軟体動物」などになるでしょう。
魚類は海水魚と淡水魚に分類されるがここでは割愛します。
海獣類は「鯨類(クジラやイルカ、シャチなど)」「海牛類(ジュゴンやマナティなど)」「鰭脚類(アシカやオットセイ、アザラシやセイウチなど)」に分類されます。場合にっては、ラッコやホッキョクグマを加えて海獣類と捉えることもあります。海獣はすべて胎盤を有する哺乳類であることも知っておきたい知識です。
「刺胞動物門」はクラゲやイソギンチャクなど、「甲殻類」はカニやエビなど、「軟体動物」はタコやイカなどが属します。

(2)水族館にいる動物の診療

獣医学部を卒業し、獣医師免許を取得した獣医師だからと言って、水族館にいる動物の診療ができるのかと言われれば、そんなことはありません。時代は進んでいるとはいえ、筆者が大学に在学中は水産系の授業の一環として魚病学を学ぶ機会はありました。多くは、観賞用や漁業に関係する魚類の病気の授業でした。大学によるかもしれませんが、クジラやアシカなどの授業は全くありませんでした。どのような病気があるのかも知らない状態でした。たまたま、勤務した小動物の動物病院の近くに水族館があり、血液検査の依頼が時々ありましたので検査をさせていただいていました。

魚類や海獣に携わった獣医師や飼育員の方々の試行錯誤の積み重ねの結果、現在では治療のマニュアルができてきています。陸に住む動物とは全く異なり、同じように治療にあたることはできません。
2023年に入り待望の海獣の診療マニュアルが発売になりました。海獣医師を目指す方はぜひ参考にしていただきたいと思います。

海獣診療マニュアル 
上巻:クジラ類の診療編
下巻:海牛類・鰭脚類の診療編
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4. 海獣医師を目指すには

(1)海獣医師を目指すには

この大学を卒業したら水族館の獣医師になれるという特定の大学はないのが現状です。獣医学部で魚類や海獣類について学ぶ機会は少なく、文部科学省において制定された獣医学教育モデル・コア・カリキュラムでも魚病学については定められていますが、海獣については定められていません。
しかし、水族館によっては獣医学家庭を学ぶ大学生対象の水族館獣医業務研修を行っている場合があります。期間が決まっており、受け入れ人数も非常に少なく、書類選考があります。実習にあたっては指導料が必要になる場合があります。希望する水族館のHPをあらかじめ確認しておき、申し込みましょう。
海獣医師を目指すにあたって、実際に体験することは非常に重要です。自分が想像していた内容と異なる場合もあります。実習を行い、慎重に判断しましょう。

参考
マリンワールド海の中道
かごしま水族館
沖縄美ら海水族館

(2)海獣医師の給与

海獣医師の給与は動物医療センターや動物病院の勤務医と比較して給料が安くなることが多いです。2023年2月時点の年齢別の年収は、男性が25~29歳で397万円、30~34歳で525万円、女性が25~29歳で421万円、30~34歳で439万円となっています。

タイミングにもよりますが、様々な求人サイトで募集がありますのでまめにチェックしましょう。

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まとめ

水族館の獣医師について紹介しました。海獣についての勉強は大学でも行われる機会が少なく、興味のある方は自主的に道を切り開いていくことになりそうです。まずは、獣医学部に在籍する獣医学生や既卒の獣医師を実習で受け入れてくれる水族館で実習してみましょう。海獣の診療マニュアルが本年(2023年)に発刊になりましたので、このような書籍で知識を蓄えていくことも重要でしょう。

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