獣医師の職域2024.06.18
大動物 (産業動物)の獣医師のなり方は?平均給与も解説!
獣医師の職域は多岐にわたりますが、なかでも大動物(産業動物)獣医師は、志望する学生の数に比べて世の中の需要が高い職種です。いわゆるペットを診療する獣医師の進路とどう違うのか、大動物(産業動物)獣医師になるためにはどのようにすればよいのでしょうか?仕事の内容や平均年収についても紹介いたします。
1. 大動物 (産業動物)獣医師とは
①大動物とは
大動物は、「産業動物」「経済動物」とも言われ、具体的には牛や馬、豚や鶏、羊、山羊などのことを指します。つまり、家畜、家禽と同義といって良いでしょう。
大動物、産業動物、経済動物とは、人間が食肉、乳製品、卵、繊維、皮革、労働力などの生産や提供を目的として飼育する動物のことを指します。大動物は、そのオーナーである畜主がその動物によって経済行為を行っていることや、農業や畜産業において重要な役割を果たし経済的にも大きな影響を与えていることからも、経済動物と呼ばれる所以と言えます。
いわゆる犬猫やウサギといったペットである愛玩動物の対義語として使われることが多いです。
一方、飼育と管理には、動物福祉、環境への影響、持続可能な農業など、さまざまな課題が関連しています。
②大動物(産業動物)獣医師とは
大動物(産業動物)獣医師とは、牛や馬、豚や鶏、羊や山羊といった家畜の診療をする獣医師のことです。
臨床獣医師の仕事を分類する際、「小動物獣医師」「大動物獣医師」など動物種によって肩書きが変わるのが一般的です。
便宜上、小動物・大動物と表現されますが、大きさだけで分類されているわけではありません。ペットである愛玩動物を診療する獣医師なのか、家畜である産業動物を診療する獣医師なのか、ということで分類されます。
動物の家畜化に関する歴史はとても古くから始まっており、紀元前1万年頃からといわれています。獣医師の歴史としても、元々は家畜を診療する職業として知られていました。獣医大学のカリキュラムも現在と違って大動物の診療に特化した学問であったと伝えられています。
しかし、現状は大動物獣医師は人手不足が続いており、国としても産業動物獣医師の育成・確保等対策を講じているところです。
参考)農林水産省HP
2. 大動物 (産業動物)獣医師の仕事
①診察と治療
病気や怪我の診断と治療を行い、動物の健康を維持するための基本的な業務です。
動物の全般的な健康状態を定期的にチェックし、病気や異常の早期発見に努めます。これには動物のオーナーさんからの症状等の問診、体温測定、血液検査、レントゲンや超音波検査などの臨床検査が含まれます。適切な診断のもと治療計画を立て、薬物療法や外科手術などの治療をします。
感染力の強い特定の伝染病が判明した際には、法に則り、農場内もしくは近隣の農場の動物を殺処分しなければならない場合もあります。また、殺処分が義務付けられていない疾患でも、農場はその動物によって利益を出さなくてはなりませんから、それを上回る治療費をかけることはできません。
このようにシビアな一面もある仕事ですが、人間の食品の安全と安心を守るやりがいのある仕事でもあります。
②繁殖管理
大動物(産業動物)獣医師は、畜産農家と協力して繁殖計画を立てます。繁殖時期、繁殖ペアの選定、人工授精のスケジュールなどを計画し、繁殖効率を高めるのも仕事です。
超音波検査やホルモン測定などの技術を使い、発情状況をモニタリングしながら発情期の動物を正確に把握し、適切なタイミングで人工授精や交配を行います。
家畜では人工授精が一般的です。受精卵を他の雌に移植することで、優秀な遺伝子を持つ動物の増産を促進します。
出産の際には立ち会い、正常な分娩をサポートします。難産の場合には介助を行い、母体と子の健康を確保します。
また、不妊症や流産などの繁殖障害を診療することもあります。これにはホルモン療法や手術などが含まれます。
③衛生管理
衛生管理は、産業動物の健康を維持し、感染症の予防を目的とした重要な業務です。
畜舎の清掃、消毒、換気などを指導し、動物が清潔な環境で飼育されるようにします。これにより、病原菌や寄生虫の発生を防ぎます。
ワクチン接種や寄生虫駆除プログラムを計画・実施し、感染症の発生を予防します。定期的な健康チェックも行い、早期発見と治療を推進します。感染拡大を防ぐための検疫措置を指導することも衛生管理業務の一つです。
畜産農家に対して、衛生管理の重要性や具体的な手法を教育し、二人三脚で農場の生産性に貢献することが大事です。
④飼料設計
飼料設計は、動物の健康と生産性を最大化するために、栄養バランスの取れた飼料を計画する業務です。
動物の種類や成長段階、健康状態に応じて、飼料の処方を行います。特定の病気や栄養不足を予防・改善するために、飼料成分の調整を指示します。
家畜が何を食べるかは、その家畜の健康や肉質などに直接影響します。農場によってブランドとしての個性を出す必要もありますから、畜産農家の方々ときちんと相談して飼料設計を行うことが大動物(産業動物)獣医師として重要です。
3. 大動物 (産業動物)獣医師になるには
大動物(産業動物)獣医師になるには、他獣医師の職種と同様、獣医師免許を取得しなければなりません。6年制の獣医大学を卒業し、農林水産省の獣医師国家試験に合格する必要があります。
大学では、犬猫だけでなく、牛や馬、豚や鶏の獣医学もカリキュラムに組み込まれています。大動物の疾患や治療、解剖学や生理学、実習等、希望進路に関わらず、犬猫と比較しながら全員が学びます。実際の牧場や農場に行く実習もあります。
同じく、獣医師国家試験では、内定先や進路に関わらず小動物と大動物両方の内容が試験範囲です。
大動物(産業動物)獣医師になるための就職先は大きく分けて以下の通りです。
①NOSAI(農業共済組合)
NOSAI(農業共済組合)とは、農業保険法に基づいて農業保険制度を取り扱う組織のことです。獣医師として就職すると、共済に所属している家畜診療所や組合所属となります。共済に加入している牧場や農場の家畜の診療を行うのが仕事です。
地域によって募集時期や人数は異なります。普通自動車免許が必要な場合がほとんどです。
参考)
全国農業共済協会HP
NOSAI団体等 獣医師採用情報
②民間の牧場や家畜診療所
牧場やその会社ごとの求人によって条件が異なります。中には学生実習を受け付けている場合もありますし、小動物動物病院が併設されている診療所もあります。
その他、地方の畜産協会が公社として獣医師を募集しているケースもあります。実習やインターンシップのような形を受け入れている場合はそれを活用し、コネクションを作っていくことも重要かもしれません。
4. 大動物 (産業動物)獣医師の年収
規模や運営団体によって異なりますが、大動物(産業動物)獣医師の年収は300〜500万と幅があり、平均では400〜500万程度です。中途採用や経験者採用だと、年収600万以上を見込めることもあるようです。小動物病院の獣医師の年収はキャリアによりますが、450〜750万円が平均と言われています。経験を積み、技術レベルが上昇すれば給与が上昇するのは大動物分野でも小動物分野でも同じですが、小動物臨床に携わる獣医師の方が年収が上回るのではないでしょうか。
5. まとめ
大動物(産業動物)獣医師のなり方、年収について解説しました。産業動物は、利益を出すために生産コストに制限があります。大動物(産業動物)獣医師は病気を治すだけが仕事ではなく、淘汰を判断するのも仕事です。
求人ひとつひとつの募集人数は少ない傾向にあります。求人によっては試験を行うこともありますから、小動物獣医師の就職よりシビアな面もあります。
人手不足ではありますが、実際求人の人数はそこまで多くないのが実情です。様々な課題がある業界であり、大動物(産業動物)獣医師やこの業界に進路を希望する学生は重宝されます。就職に関しては常に情報を集めておくことも重要です。