獣医師の働き方2022.04.21
新人獣医師が1年目にクリアすべき業務内容
新卒の獣医師が修得すべきことは膨大にあります。動物病院で一人前の獣医師として患者さまに向き合っていくためには段階を踏んだ学習が必要です。
まず、1年目にクリアする業務内容にはどのようなものがあるのでしょうか。
動物病院によって異なる部分はありますが、モデルケースとして紹介いたします。
獣医師のスキル
獣医師のスキルというと「治療」「手術」「検査」というイメージがわくと思います。しかし、実際動物病院で働くと「準備・片付け」「掃除」「接客・電話対応」「発注」「経営」など医療と少し違う業務があることに気づきます。想像しているよりも動物病院内の業務は多く、何からやっていけばよいのか迷うと思います。
病院内に教育プログラムがあればそれに従って進めていけばよいでしょう。教育プログラムがない病院も多いので、その場合は先輩獣医師や院長に相談し、指導を仰ぎながら知識と技術の習得に努めましょう。
一番良くないのは、闇雲に手を出し自分を見失うことです。
では、次にモデルケースを紹介します。
教育プログラム
一般的に3年間で一通りのスキルが身につくといわれています。そんなに長くかかるのかと思うかもしれませんが、言い換えればそれほどマスターしなければいけない基本項目があり、安定したスキルを身に着けるためには最低3年はかかるということです。
もちろん個人差がありますので、プログラムは例としてとらえましょう。早く身につくに越したことはありませんが、雑な身につき方は好ましくありません。自分のペースで確実に進むことが大切です。
①4~6月
・社会人教養(マナーなど)
・院内業務(受付、調剤、清掃、入院室管理など)を確認する
・受付から会計まで、外来患者に対する診療の一連の流れを確認する
・安全な保定の方法を学ぶ
・検査全般(検査機器の取り扱い方、身体検査、血液検査、便検査、尿検査、その他検査)の手技を学ぶ
・予防薬の種類と違いについて理解し処方できる(ワクチン、ノミ・ダニ予防薬、フィラリア予防薬、内部寄生虫予防薬など)
・手術見学
②7~9月
・先輩獣医師とともに入院動物の検査や治療に当たる
・手術準備、片付けに携わる。麻酔管理などについて学ぶ。
・予防医療について飼主様に説明できるようにする
・基本的な検査が一人でできるように、検査手順や方法について確認し、確実かつ迅速に行えるようになる
③10~12月
・先輩獣医師とともに予防をはじめとする一般診療に少しずつ携わる
・薬の処方について学ぶ
・電話対応を行い飼主さまとのコミュニケーションを積極的にとる(不明な点は必ず先輩に確認する)
④1~3月
・歯石除去、去勢手術、避妊手術などの基本手術から習得する
・動物の状態を把握し、自分が主体となって外来診療にあたる(不明なことは先輩に相談する)
2年目、3年目の過ごし方
タイトルは1年目の獣医師がクリアすべき業務内容についてですが、そこがゴールではないので1年目を終えた獣医師が2年目、3年目にどのように過ごしていくかについて少し触れたいと思います。
①アウトプットを心がける
獣医師1年目は学生から社会人になるために、さまざまな面で戸惑うことも多いでしょう。学生時代はインプットがメインですが、それが急激にアウトプットになるのが動物病院に勤務する獣医師に要求されることです。もちろん、インプットの継続は必要です。場面に応じて的確な知識と技術のアウトプットができるように経験を積んで行く必要があります。
②チーム医療
2年目以降は同僚の獣医師、動物看護師、飼主さまとコミュニケーションをとりながら、チームの主体として治療に当たっていくことが中心になっていきます。的確な治療を行うために知識と技術を深めることはもちろんですが、一人では治療に当たることはできません。動物病院はチーム医療です。どんな場面でも協力して治療に当たることを忘れないようにしましょう。
③専門分野を作る
新人獣医師の間はどのような病気にも対応できるジェネラリストをまず目指すべきです。さまざまな病気に取り組む過程で自分の強みや興味がある分野が見つかるはずです。得意分野を伸ばしていきましょう。
④一般外科、一般診療ができる
3年目を終えるころには一般外科を一人で安全に行うことができ、予防診療をはじめとする一般診療ができるようにしましょう。投薬内容や診療方針を自分一人でたてることができるようになることが3年目の獣医師には求められます。ここから、得意分野を持つジェネラリストを目指すのか、スペシャリストを目指すのか、このころから決定していきましょう。
広い視野を身に着ける
専門性を追求する前に動物も仕事も広い視野でとらえることができるようになることが大切です。
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、一部分だけを見て全体を見ないことは病気発見の遅れにつながることがあります。必ず全体を見ることを忘れないようにしましょう。これは実際の治療だけでなく、問診や飼主さまとのコミュニケーションにも同じことが言えます。
例えば、問診の場合違った観点から飼い主さまに質問していくことで治療の糸口が見えることもあります。また、治療の内容によっては家庭環境について質問しながら問題解決に当たらないといけないケースも出てきます。問題行動は代表的な例です。飼い主さまの主訴だけでなく、ペットと飼い主さまを取り巻く環境面も広く考慮しながら治療法方針を立てていくことも時には必要です。
広い視野を身に着けることは職場内でも言えることで、獣医師は動物看護師やトリマーの仕事内容も知った方が良いでしょう。それぞれの仕事の内容や苦労を実際に知ることで、気遣いや配慮が生まれます。動物病院はチーム医療です。お互いの仕事を知ることで更に良い医療を提供することができるようになります。
まとめ
獣医師の1年目の送り方次第でその後の獣医師人生が決まると言っても過言ではありません。
その反面、最もつらいのが1年目と言えるでしょう。一足飛びに上達することはありません。闇雲にあれもこれもと手を出すのではなく、計画を立てて一つ一つ習得して行くことが大切です。