獣医師の働き方2025.05.21

獣医師のメンタルケア

新年度が始まり1か月余りたちました。ゴールデンウイーク期間中は休診になる病院もありますが、最近は通常通り診察を行う動物病院も増えています。

ちょうど4月から予防シーズンが始まり、フィラリア予防・ノミダニ予防・狂犬病予防接種と動物病院にとって1年で一番忙しい時期が春です。そのような忙しさに飲まれ、大きな希望をもって就職したが、思っていた状況とは異なると感じる人も多いのではないでしょうか?

ゴールデンウイークなどで旅行やレジャーを楽しむ人が多い中、獣医師は休むことが一番難しい時期です。気が付いたら以前ほどのやる気が失われている。もしかしたら、それは五月病なのかもしれません。

本記事では、獣医師ならではの5月病対策と職場環境の見直し方を紹介します。

目次

  1. そもそも5月病とは?
  2. 獣医師ができる5つのセルフメンタルケア
  3. 職場環境の見直しポイント
  4. 5月病は恥ずかしくない|まとめと読者へのメッセージ

そもそも5月病とは?

5月病の一般的な症状

5月病の一般的な症状は、精神的な落ち込み、無気力、不安、食欲不振、集中できない、眠れない、疲労感、頭痛など、気持ちだけでなく身体の不調も伴います。

新入社員や部署が変わるなど大きな環境の変化を迎えた人が、ゴールデンウイーク明けくらいの時期におこりやすく、仕事に影響が出るような状態のことを言います。

◇5月病の原因

5月病のきっかけの一つにゴールデンウイークがあります。4月から新しい環境で働き、過度に緊張しながら早く職場に慣れようとしたり、仕事で成果を出そうと頑張り続けます。この緊張の糸が大型連休で切れてしまいメンタルに変調を起こしてしまいます。
5月病には次のステップがあると言われています。

  1. 新しい環境で大きな変化が起こり心身に負荷がかかる
  2. 疲労があるが解消できないまま、無理をして頑張り続ける
  3. ゴールデンウイークで緊張の糸が切れ、抑えていた疲労が表面化する

獣医師に特有のリスク要因

ストレスが原因になる5月病ですが、獣医師の場合どのようなことが5月病を引き起こす原因になるのでしょうか?
   
動物病院の労働環境は以前に比較するとかなり改善しています。当たり前のことですが、労働基準法に則った労働環境を徹底する動物病院が多くなりました。

診療予約制を導入することで、診察時間にメリハリがつくようになりましたが、緊急対応や時間を要するオペなどはあり、緊張状態の多い職場であることに変わりはありません。さらに、飼い主さまからのお申し出や医療事故に対する訴訟も多くなりました。

また、動物病院にとって春は予防シーズンで繁忙期に当たります。その時期に就職する新人獣医師に時間的に十分な教育を行うことが難しくなります。技術・接客面で不十分なことがあり、大きな希望を抱いて就職してきた新卒獣医師は「何も教えてもらえないし、仕事がない」と感じてしまいがちです。

獣医師の場合、このような複数の要因が重なり5月病になりやすくなります。

「5月病」は軽視できない!放置するとメンタル不調や離職に繋がる可能性も

5月病は放置してしまうとメンタルの不調だけでなく身体の不調も招いてしまい、回復までに時間がかかってしまいます。理解してくれる人がいないとさらに追い込まれてしまい離職に繋がる可能性もあります。心身の状態を理解し、支えていくことが重要になります。

獣医師ができる5つのセルフメンタルケア

① 休息を意識的にとる

獣医師になっている皆さんは集中して勉強をする習慣がついている人たちです。最も効率よく勉強するペース配分は25分集中し5分休むことを繰り返す「ポモロード勉強法」です。

獣医師の仕事は25分で終わらないこともしばしばですが、休憩をしないとかえって能率が落ちることを頭の片隅に入れ、上手に休憩をとって仕事に取り組みましょう。

また、昼休みに勉強に取り組む人もいるかもしれませんが、合間に10〜20分の昼寝を取り入れることで午後診療の効率が上がります。休憩も仕事の一環と考え、メリハリをつけて休みましょう。

② 同僚や家族に相談する

悩みの大小はあれども、悩みのない人はいません。悩みを相談すると負けた気がする、迷惑をかけると考える人も中にはいますが、そんなことはありません。

悩みの解決方法は人それぞれですが、一人で考えても解決できない場合は信頼できる人に聞いてもらいましょう。悩んでいると悩みの本質が見えなくなることがあります。悩んでいることを木の幹とすると、枝や葉が覆いかぶさり本質が隠れてしまっている場合もあります。悩んだ場合は話してみることでもつれが解れることもあります。

また、愚痴を言ってはいけないとよく言われますが、言わない人はいないのでしょう。不満を溜め過ぎて爆発するなら、小さな愚痴を口に出しても良いのではないでしょうか?口に出した後に心の重荷を少しでも減らすことができるように愚痴をこぼし、引きずらないことが肝心です。

③ 小さな達成感を積み重ねる

日々動物病院で仕事をしていると、自分ができない治療や処置を鮮やかにやってのける獣医師に遭遇します。自分のレベルと比較して落ち込んでしまいます。

落ち込んでもよいのですが、落ち込んだままではなく自分の糧にしていきましょう。出来ないことをできるようにしていくことが大事で、すべての獣医師が最初からできていたわけではありません。

できなかったことを一つずつできるようにしていく積み重ねが、ベテランの獣医師への道程です。出来ないことを見つけ、ポジティブに捉えましょう。

④ 適度な運動・睡眠を心がける

体を動かすと、気分が前向きになりやすいです。

運動によって、脳内でセロトニンやエンドルフィンといった物質が分泌されます。セロトニンは特にストレスに対して効能があり、自らの体内で自然に生成されるもので、精神安定剤とよく似た分子構造です。

エンドルフィンは痛みの緩和や免疫力向上、リラックス効果など、気分を良くしていくホルモンです。その分泌量が減るとノルアドレナリンという興奮ホルモンの分泌量が増加し、常に不安や興奮を感じるようになります。

軽い運動を行うと疲れを伴いますので安眠にもつながります。

⑤ 必要なら専門家に相談する

メンタルの問題は自分で解決できない場合も多いです。身体の不調は病院に行き積極的に治療をしようとしますが、メンタルの問題は病院の門をたたくのが億劫になるかもしれません。

しかし、心も体を構成している重要な部分ですので、メンタルヘルス相談窓口やオンラインカウンセリングなどを利用してみるのもよいでしょう。心療内科や産業医などの活用も可能です。

職場環境の見直しポイント

勤務時間の見直し

勤務時間が長くなったり、一人への負担が大きくなると不満が生まれます。仕事は常にチームで分担しフォローしながらすすめる方がよいでしょう。

原則として、1日に8時間、1週間40時間以内、8時間勤務の場合は1時間の休憩が労働時間の基準です。

残業が増えている場合はその理由を確認するなどし、労働の負担や効率の見直しを定期的に行うことが大切でしょう。

コミュニケーションの改善

スタッフ間のコミュニケーションはとれているでしょうか?挨拶や業務連絡などは行われていますか?「おはようございます」「お疲れさまです」「お願いします」「ありがとう」何気ない一言ですが、このようなコミュニケーションが取れていないと業務上のミスも起こります。意思疎通をとるためにも毎日時間を決めて、全体で業務連絡を行うこともよいでしょう。

マネジメント側の意識改革

無理のない診療スケジュールとスタッフ配置を行うことが大切です。また、余裕のない状態が長く続くと、取り返しのつかないミスが起こりやすくなります。少し余力のある人員配置と診療スケジュールを組むことが大切です。

適切に休暇をとることを奨励し、休むことに罪の意識を持たないように取り組むことも必要です。

また、今後を担う若手獣医師の教育はとても大切です。可能であればエルダーをつけ、知識や技術取得の状況を一緒に確認していきながらステップアップの助けをしていきましょう。

外部リソースの活用

特に繁忙期である春は人手が足りません。そのため、無理な勤務状況になり、ギスギスする可能性もあります。人手が足りない場合は、獣医師派遣、非常勤スタッフの活用なども検討してみてはいかがでしょうか?

フィラリアの検査や採血などは愛玩動物看護師が可能な業務のひとつです。獣医師でなくても可能な業務をお願いすることもできるでしょう。

また、事務作業や獣医師でなくても可能な業務はアウトソーシングすることを検討するのも業務改善の一つの方法です。 

5月病は恥ずかしくない|まとめと読者へのメッセージ

5月病は4人に1人が経験すると言われています。

また、5月に心身の不調を経験したことがある人は55%にも達し、特別なことではないと言えるでしょう。

獣医師の仕事は命と向き合う仕事で、自分の状況を直接伝えてくれない動物の状況を客観的に把握していく必要があり、ある意味心身をすり減らすことが多い職業です。セルフケアも大切ですが、職場全体でお互いをフォローしあっていく環境も大切です。
イライラしている、うまく物事が進まない時にはいったん休憩。気持ちのリセットをしながら日々の業務に取り組んでいきましょう。

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